超ひも理論や暗黒物質に興味があればおすすめ『重力の影』(ジョン クレイマー)

巻末に著者のあとがきがあり、小説のなかで使われている本物の物理理論と著者が味付けの偽理論が説明されているので理解に役立つ。本を読んでいる時に感じていたのは、実に物理理論に詳しく生々しいということだったが、同様にあとがきで著者が執筆当時現役の物理学者であったというのを知って納得。wikipediaによればハードSFとは、「科学性の極めて強い、換言すれば科学的知見および科学的論理をテーマの主眼に置いたSF作品」というらしいが、超ひも理論(超弦理論)をかじって何冊か本を読んでる者としては、ストーリーの核になってる、われわれの世界が実は10次元とか11次元で、ダークマターの謎をあわせると平行宇宙の存在が考えられる、平行宇宙の間を影響し合うのは重力だけ、というのは夢物語ではなく現在論理物理で研究されていることなのである。そういう面でわくわくしながら作品を楽しめることができた。
本職が物理学者なのに小説の腕前もなかなかのようで、ストーリー展開ももちろん素晴らしく、ロマンスあり、バイオレンスあり、産業スパイも登場して話が広い。 この小説が書かれた当時、まだインターネット普及の前で、コンピュサーブなどのパソコン通信全盛期だったせいかアナログのモデムまでも活躍しているが、IBMのメインフレームやらDECのVAXや初期のMacintoshさらにはApple IIまで出てくるのは懐かしかった。
ストーリーのラストは物理学者が出てしまったのか、ちょっとそんな無責任にこんな大変な理論を世界中にばらまいちゃっていいの?と心配になる終わりかたで締めくくられる。その後の地球上の平和が心配っちゃ心配になる。

"重力の影 (ハヤカワ文庫SF)" (ジョン クレイマー)

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