昭和の香りを楽しめるSF『奇妙な妻』(眉村 卓)

本書に組み込まれている21の短編は、昭和40年前後に書かれたもののようだ。かなり共通してるなあと思うのは、そのころのサラリーマンとその夫婦という舞台設定。昭和40年前後の一般的なサラリーマンや夫婦が直面するSFやホラーである非日常がそれぞれの物語になっていて楽しめる。住んでいるのは当時の定番住居あるいは憧れだったかもしれない“団地”であり、マンションではない。妻は専業主婦で共稼ぎという話は無かった。まずはそういう時代を楽しめる本でもあった。
“高度成長期”といわれた時代なのにがむしゃらに働くサラリーマンは登場しない。そういうサラリーマンの主人公だからとんでもないことに巻き込まれるとも言えるのかなあ。そのサラリーマンに寄り添っている妻というのもほぼ共通していて明らかに仲がうまくいってない夫婦というのも登場しない。なぜか主人公の同僚女性は怖い人ばかり。眉村さんはサラリーマンを経験した後に小説家になったそうだし、病床の奥さんのために毎日ショートショートを書き続けたという話もあるので、かなり眉村さんの実生活の経験が色濃く現れているのかもしれないなあ。

"奇妙な妻 (角川文庫 緑 357-15)" (眉村 卓)

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